闘い続ける 前・衆議院議員田中けいしゅう

成熟国家への道を探れ 

衆議院議員 田中慶秋(役職は当時)

●少子・高齢社会が国の形を変える。

 日本は、今や世界に例を見ないスピードで少子・高齢社会を迎えている。老年人口の総人口に占める割合を示す高齢化率は、ピークとなる2050年頃には35%以上に達するとみられている。長寿になったことと合わせて、少子化現象に歯止めがかからないのが高齢化を加速させている原因だ。これは深刻に受けとめていかなくてはならない。そして少子化現象は我が国の総人口を確実に減少へと向かわせている。政府は少子化対策の強化に乗り出してはいるが、決定的な打開策を見出せずにいる。出生率の低下は1970年代から続いて、74年には2・05人だったものが今や1・36人になり、人口維持に必要とされる2・07人は確保されていない。人口問題研究会では結婚さえすれば千が生まれるとか、晩婚が少子の原因だなどと分析していたが、「楽観論は崩れた」と読みの甘さを報告している。出生率と寿命がこのままの割合で推移するとした場合、100年後の人口は現在の三分の一の約4200万人になると試算している。

 これに関連する問題として、経済産業省は労働人口が50年後には30%減少するというショッキングな試算をまとめている。働く人の割合が2000年の6766万人から2050年には4718万人になるというのだ。これは労働力率(人口に占める就業者数と求職者数の合計の割合)が変わらないことを前提にはじき出された数字だが、今後、人口の減少に比べて労働力人口の減少スピードは大きく上回ると推計している。ただ、これらのデータが、労働力人口を男女とも15〜64歳としていることを考えると、いつでもいつまでも働ける生涯現役の「日本型福祉国家」の考えに基づいて就労形態を変えていくことで、また、女性の職場参加を高めることで労働力人口の上限幅を拡大することが可能となり、滅少は食い止められるはずだ。現に、経済産業省でも高齢者や女性の就業率を高めれば、6300万人程度の労働力人口の維持は可能と指摘している。いずれにしても少子・高齢社会と人口の滅少が抱える問題は、新たな国の形へと否応なく転換せざるを得なくなるであろう。

●人口の滅少と少子・高齢社会は、必ずしも国の衰退を意味するものではない。

 我が国は戦後の復興期において、言わば単純労働により国の生産性を高めながら発展を遂げてきた。この時代は、まさに労働者の数、イコール生産力となって表れた時代である。人口の滅少、少子・高齢化は“製造業の空洞化”と結びついて考えられやすい。「中国脅威論」もこれに拍車をかけている。テレビ、カセット、電卓、時計など身の回りの品に日本製品を見つけるのは難しくなってしまった。これが衰退国家論の要因ともなっている。また、最近では単純労働ではなく、高度な技術を必要とする製造業まで海外移転が始まっている。欧米に比べて知的財産権等に関する取り組みの遅れも指摘される。研究・開発のしやすい環境づくりを進め、真似のできない技術をつくり出していかなければならない。

 少子化、高齢化、人口の減少が進むことを国の衰退に通じると心配するのであれば、21世紀を迎えた我が国は産業の転換期と捉え、人的・物量的労働力から知的労働力ヘ、そして今度は質を高めた内需拡大へと国の方針を換えていけばいい。少子・高齢社会だからこそできることがあるはずで、世界に先駆けた「日本型福祉国家」ヘの新たな試みとして未知への分野へと果敢にチャレンジしていけば、我が国が進むべき道は自ずと開けてくるはすだ。

 我が国は1400兆円に上る個人金融資産と600兆円を超える法人が抱える資産がある。さらには債権国家であることも忘れてはならない。資産がある我が国は、国内において我々の生活の質を高めるための投資分野も多く、これらに着目することで日本経済を再生し、成熟国家へと変身させることができる。例えば医療・福祉・介護・教育・住宅・環境などは、少子・高齢社会にとって切り離せない産業だ。これらは産業の空洞化とはかかわりの薄い、内需型のものばかりである。

 世界に先駆けた生涯現役の「日本型福祉国家」づくりは、何処の国も未だ経験したことのないビッグプロジェクトだ。人間の感覚は何もしないでいると30歳をピークに10歳ごとに10%ずつ衰えるといわれている。70歳ではピーク時の40%が失われることになる。このことを考えると、今までの常識では考えられない様々な不便が日常生活に生じてくる。この不便を便利にすることで新たな技術が生まれる。政府では都市再生を景気対策の重点項目に掲げている。学校・病院・ホテルなどを対象にバリアフリーの義務付けも既に決められている。少子・高齢・人口の滅少によるバリアフリーの発想が、世界をリードする全く新たな技術革新を生みだすはずだ。

 例え日本の人口が半滅したとしても、豊かな成熟国家として国力を高めていくための制度を、政・財・官・学・民が一体となり、総力を挙げて邁進していけば、明るい日本の未来は必ず開けてくることは間違いない。

Discussion Journal『民主』2002.summer 1号「リーダーズボイス」より転載